解 説
昭和を元気にした男・植木等。ハナ肇とクレージーキャッツのギタリストにしてコメディアン、歌手として、豪放磊落な「スーダラ男」「無責任男」として数々のコミックソングと、『ニッポン無責任時代』(62年)に始まる「クレージー映画」で一世を風靡しました。
そのイメージから一転、黒澤明監督『乱』(85年)や木下惠介監督『喜びも悲しみも幾歳月』(86年)で実力俳優としてさらなる飛躍を遂げるきっかけとなったのが、1979年に製作された感動大作『本日ただいま誕生』です。
『本日ただいま誕生』は、1978年に独立プロダクションの映画としてクランクイン。日本の美しい四季の風物を織り込みながら撮影が行われましたが、資金不足のために製作がストップして、あわや未完の危機に直面したものの、植木等自らが奔走、渡辺プロダクション社長・渡邊晋が「この映画は完成しなければならない」という植木の熱い思いを受け、完成にこぎつけました。
この映画は、東映で高倉健主演の娯楽映画を手がけた時代を経て、初めてフリーとなった降旗康男監督にとって大きな転機を迎えた作品となり、降旗監督はのちに日本映画史上の名作といわれる『駅STATION』(81年)、『鉄道員』(99年)を世に送りだしました。
植木等は撮影にあたり、自ら頭髪を丸め、戦中、戦後という時代、庶民とともに生きた住職を真摯に演じております。こうして植木等と降旗監督、そしてスタッフの思いが作品に結実され、ようやく完成しました。当時、限られた劇場で短期間上映されたものの、フィルム原版の所在が不明となり、長らく“幻の作品”となっていましたが、2014年に発見され35年ぶりに第27回東京国際映画祭で特別上映されました。
その後、都内の名画座で上映のたびに、オールドファンだけでなく、若い映画ファンの熱い支持を受けています。現在ソフトパッケージ化されておらず、映画館のスクリーンで体感できる“幻の作品”として注目を集めております。
原作は、曹洞宗・法永寺住職の小沢道雄(1920〜78)が自らの波乱万丈の人生を綴った同名の小説が題材となりました。
あらすじ
第二次大戦、戦場で右肩の自由を失い、敗戦でシベリアに抑留されていた大沢雄平(植木等)は零下四十度を越える極寒の貨車の中で凍傷におかされ、両足を切断する。生死の境を彷徨しながら、引揚船で敗戦による荒廃と混乱の日本にやっと帰国。「よう帰って来た」と涙する母との再会の喜びも束の間、元上官の母娘の家に寄宿して、慣れない義足をつけて生きなければならなかった。その時、雄平は高子(宇津宮雅代)と知り合った。そして雄平は再手術をした後、病院の片隅で細々と商売を始める。そこで、雄平を満州の荒野に置き去りにした男、横田(川谷拓三) と坂本(中村敦夫) に再会する。土下座して許しを乞う二人と共に、雄平は小さな会社を興す。商いも繁盛し、高子の真情を知り、彼女を愛し始めるのだった。だが、現実は夢を見させない。会社は倒産し、心を開き生活を共にした高子とのどん底の生活、そして別れがやってきた。九死に一生を得た生に次々と訪れる困難。流転三界、雄平は、頭を剃り、頭陀袋を下げて放浪の旅に出る。義足での托鉢行脚の放浪中、見知らぬ人々との交りの中から、きらめくような真理を会得し、自らの法悦を説き、安心立命の境地へ変貌をとげていくのだった……。
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